【わかりやすく解説】足場からの墜落防止対策の強化関係|一人親方に業務を発注する際の注意点
2024年6月21日
厚生労働省は、2014年から建設現場における労働者の死亡災害発生件数を公表しています。特に死亡災害件数のうち一人親方が占める割合は高く、1年間で約90人もの方が亡くなっている状況です。
そのため、元請事業者や協力会社は一人親方などに業務を発注する際に注意すべきポイントが複数あります。死亡災害を軽減するためにも注意点をしっかり把握したうえで、安全に工事を進められるように努めることが重要です。
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近年の建設業の死亡災害発生状況
近年では、一人親方を含めた労働者の死亡災害が多数発生しています。2018年から2022年の平均値は、労働者全体で年間約280人、一人親方は年間約90人の方が亡くなっている状況です。なお、労働者全体の数値は一人親方の死亡者数を除いた人数になります。
【2018~2022年 】5年間で451人 の一人親方等が亡くなっています
2018〜2022年の5年間で合計すると、451人の一人親方が労働災害によって亡くなっています。451人のうち建築工事で294人・土木工事で59人・その他の工事で72人が命を落としています。
割合としては建築工事が65%と高く、その中でも木造家屋建築工事が116人と最も高い数値です。次に鉄骨や鉄筋コンクリート造の家屋建築工事で51人、その他の建築工事で125人といった内訳です。
また、災害の内容としては墜落や転落事故が63%と最も高い割合で発生しています。そのほかでは、はさまれ・倒壊・激突されなどの内容で死亡災害が起こっている状況です。
元請等の事業者が一人親方等に業務を発注する際に守るべき3つの事項
2018〜2022年の間で平均約90人の一人親方が命を落としている状況から、元請事業者が業務を発注する際に注意すべき事項が3つあります。
- 一人親方などの就労状況の把握
- 作業間の連絡と調整
- 新規入場者教育と独り作業などの管理
1:一人親方等の就労状況の把握
一人親方が現場で作業を行う際は、就労状況をしっかりと把握することが重要です。就労状況を把握するには、再下請負人使用承認申請書の提出を求めます。
一人親方が現場で作業を請け負う期間や担当する作業内容などを確認し、関係事業者に周知することで労働災害の発生を軽減する狙いがあります。また安全工程会議の内容を一人親方にしっかりと共有するのも大切です。
2:作業間の連絡及び調整
建設現場では、一人親方を含む幅広い業種の事業者が並行して作業を進めているため、元請事業者はすべての関係事業者と連絡を取りつつ、円滑に進められるよう適宜調整する必要があります。
混在作業での労働災害を防ぐために関係事業者のほか、一人親方にも作業計画についてしっかりと状況共有するのが重要です。特に車両系建設機械や移動式クレーンなどを使用した施工を実施する場合は、災害発生のリスクが高くなる傾向が強いため注意をしなければいけません。
下請事業者が一人親方と契約を締結しているケースでは、元請事業者から下請事業者へ同様の対応を実施するよう指導を行います。
3:新規入場者教育・独り作業等の管理・確認
現場の進捗具合によっては、工事の途中から一人親方などの入場が予想されます。途中から加わった一人親方は、朝礼時に実施する安全内容の共有や注意事項などを把握せずに作業に取り掛かってしまう危険性があります。
入退場のある場合は、職長に報告義務を課すことで新規入場者教育の受講漏れなどを防止可能です。スポットで現場に出入りする可能性の高い一人親方が現場ルールを理解するよう努めることで、不安全行動を回避できます。
また、一人親方は独りで作業を行う頻度が多い傾向にあるため、作業内容をしっかりと把握して労働災害に発展するリスクを軽減するのも重要なポイントです。
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一人親方等に行う3つの安全衛生対策
一人親方に実施すべき安全衛生対策は、以下の通りです。
- KY活動と始業前の点検
- 資格の取得
- 作業変更に伴う、元請事業者・協力会社への報連相の徹底
1:KY活動と始業前点検の実施・徹底
建設現場における「KY活動」とは、危険予知活動の略称です。労働災害に繋がる危険作業を洗い出したうえで数値化し、作業員に共有することで安全意識を高めます。KY活動は朝礼時や作業開始前に実施するほか、作業終了時には次回以降の改善点なども洗い出します。
独り作業を行う一人親方の場合は、一人KYを実施することで安全行動を促すのが大切です。
2:資格の取得
車両系建設機械の運転や玉掛け作業などを行う際は、必要な資格を取得してから業務を開始させる必要があります。資格を有していない作業員が業務に携わらないように徹底して周知しましょう。
新規入場者教育を実施するときに保有している資格と証明書類の提出を求めるのも重要です。
3:元請・協力会社への報告・徹底
一人親方が現場の判断に応じて作業内容を変更し、災害が発生するケースもあります。事前に予定していた作業内容を変更する場合は、協力会社への報告をしたうえで、元請事業者の許可が降りてから作業を行うのが大切です。
労働災害が発生するリスクが高まるのはもちろん、関係事業者にも悪影響を及ぼす可能性があります。
一人親方等が現場入場時に共有すべき9つの事項
一人親方が現場入場する際は、以下9つの事項を共有しましょう。
- 所長方針
- 工事概要
- 施工管理体制
- 現場配置図
- 車両・通勤・交通
- 基本事項
- 現場の独自ルール
- 品質・環境・その他
- 一人親方等の遵守事項
1:所長方針
一人親方が入場した際、所長の安全方針や重点実施事項を共有することで現場の全体感を把握するのに役立ちます。
2:工事概要
工事名称・工事の締切・建物の構造・発注者なども共有しておきたいポイントです。特に建物の構造によっては労働災害が発生するリスクが高まる可能性もあるため、作業の進捗状況に応じて必要な情報を周知しましょう。
3:施管理体制
元請工事事務所の組織体制を共有することで、作業内容の変更に伴う報告などにスムーズに対応できます。また、現場に関わる全ての事業者が整備する安全衛生管理体制を伝えることにより、連携不足による労働災害の発生を防止します。
4:現場配置図
現場の施工範囲や出入り口、休憩所、トイレ、喫煙スペースなどが記載されている現場配置図も一人親方が入場した際に共有したい事項です。特にタバコのポイ捨て防止のために、喫煙スペースを設けている場合にはしっかりと周知します。
5:車両・通勤・交通
現場に隣接する道路では、通行車両や通行人との接触を予防する必要があります。交通量の多い現場などの場合は、入場ルートや入退場方法を周知します。また、敷地内の制限速度や高制限などの現場ルールも共有しておきたいポイントです。
6:基本事項
朝礼やKY活動への参加、保護具の着用などの基本事項も知らせておく必要があります。特に災害時の避難経路や報告方法などもチェックしておきたい項目です。
7:現場の独自ルール
現場独自のルールを定めている場合は、ルール制定における背景も含めたうえで一人親方に共有するのがおすすめです。具体的には、近隣協定や所長方針などで理由も併せて伝えることで、重要性の認識を高められます。
8:品質・環境・その他
品質を担保する工程や快適な作業環境を保持するために必要なことも、共有事項に含まれます。特に現場内の整理整頓や清掃は労働災害に繋がるほか、作業効率にも影響を及ぼす可能性があるので注意が必要です。また、産業廃棄物の分別方法や指定場所の周知も実施しましょう。
9:一人親方等の遵守事項
各種会議への参加やKY用紙への記入など、現場ごとに設定している遵守すべき事項がある場合も一人親方に共有しておきたいポイントです。
一人親方等が現場入場時に必要とされる事項
一人親方が現場入場時に必要とされている事項も把握しておきましょう。それぞれ災害を防止するうえで欠かせない内容です。
一人親方等は3点の実施・重点的なパトロールを行う
一人親方には、以下の3点を実施させます。
- 安全設備に異常や不具合が生じた場合は改善の申し出を行うこと
- 安全設備の取り外し後は復旧を義務化すること
- 1つの作業完了後に必ず片付けを実施すること
上記の3点を実施したうえで、きちんと運用されているか重点的にパトロールを行うのが大切です。
安全運動
一人親方が現場に入場した際には、災害防止を目的に安全運動を実施させる必要があります。以下の安全運動を行うことで、安全管理の定着化を促す狙いがあります。
- 声掛け運動
- KY活動
- 指差呼称運動
- ヒヤリ・ハット運動
- その他の運動
声掛け運動
建設現場の基本である「声掛け運動」は、災害リスクのある行動を作業員に伝えるのが目的です。保護帽に氏名を記載し、挨拶時などに声掛けを行いやすい対策を施します。
危険行為に対する声掛け以外にも、体調不良などを気にかける声掛けも実施しましょう。新規入場者教育の際に、具体例を記載した書類などを共有するのも手段のひとつです。
KY活動
これまでは朝礼時のKY活動が一般的でしたが、近年ではより安全意識を高めるために現地KY活動を実施する現場が増えてきました。実際に作業を行う現場を確認しながらKY活動を実行することで、起こりうる災害をイメージしやすいのがポイントです。
一人親方の場合は、一人KY活動を実施する必要があります。災害リスクの高い作業を数値化することにより、危険予知を重点的に行うのが重要です。
指差呼称運動
業務を開始する前に、作業場所全てを「指差呼称」によって点検するのも安全運動のひとつです。実際に作業場所を見ながら指差呼称を行うことで、災害リスクのある不具合の発見に繋がるケースもあります。
呼称する際は大きな声でなくてもよく、作業場所の点検を重点的に実施するのがポイントです。また、施工を行う作業員はもちろん、元請事業者が現場をパトロールするときも指差呼称をしながら災害リスクの高い箇所を点検するのが大切です。
ヒヤリ・ハット運動
「ヒヤリ・ハット運動」は作業中に起こった危険シーンを洗い出し、具体的な予防策を実施することで災害発生を防ぐ安全活動のことです。元請事業者は、作業終了後に下請事業者に潜在的なリスクを報告させます。
報告された内容を記録し、定期的な情報共有と対策を講じます。ヒヤリ・ハット運動は、災害の芽を摘むことにおいて有効な手段のひとつです。
その他
重機の接触を避けるために行う「グーパー運動」や、玉掛け時に吊り荷の落下を防ぐ目的で実施する「3・3・3運動」なども安全対策として共有したい事項です。作業内容に応じて必要な安全対策が適切に行われるように正しく指導しましょう。
作業を請け負わせる一人親方等に対する措置の義務化
2023年の4月1日から危険かつ有害な作業を請け負わせる一人親方などを対象に、保護措置が義務付けられました。主な改正内容は3つあります。
1つ目は、事業者が設置した安全設備を稼働させることです。請負人が作業するときに使用を承認するといった配慮が求められます。
次に2つ目の特定の工法で行う作業は、請負人に具体的な方法を共有することです。事前にやり方を理解することで安全かつ効率的に業務を進められます。
3つ目は、保護具の着用を義務化することです。特に労働安全衛生法第22条により、装備するのが必須の保護具については事前に必ず共有しておきましょう。いずれも請負人の保護が目的で義務化されていますが、同じ場所で作業を行う全ての人にも同様の条件が課されている点は押さえる必要があります。
危険有害な作業とは
法令改正に該当する危険有害な作業とは、労働安全衛生法第22条の有機溶剤中毒予防規則等11の省令で定められている作業が対象になっています。具体的には、有害な化学物質を扱う作業などが該当します。
危険有害作業に当てはまる業務に取り掛かる際は、保護帽や保護マスクなどを必ず着用しましょう。また、より詳しい内容をしっかりと把握したい場合は、労働局や労働基準監督署に問い合わせてみてください。
足場からの墜落防止対策|まとめ
2018〜2022年の5年間で発生した死亡事故の約6割が墜落や転落によって発生しています。特に屋根や足場などが発生場所として高い割合を占めているため、高所作業を行う際は墜落防止に繋がる対策が必要です。
具体的には安全運動の実施や安全帯の着用などを徹底することで、労働災害を防止可能です。特に独り作業の多い傾向にある一人親方が現場に入場する際には、元請事業や協力会社などを含めて安全意識を高める取り組みを行いましょう。